トッププロの動画を日本語で
500nl zoomの勝ち組として現在も君臨するかたわら、UpSwing Pokerのコーチを務めるベルギーのポーカープロ:Fried Meulders、リングネーム”mynameiskarl“をご存じでしょうか。
彼が繰り返し口にする”simplify your strategy”(戦略をわかりやすくすること)はGTOを学ぶ上で最も重要なコンセプトかもしれません。
彼のYouTube video listには500nlzの解説、GTOの基本的な概念の説明など、たくさんのすばらしい作品が並んでいます。
今回はその中でも一風変わった動画:『ポーカーは負け組のゲーム』(Poker is a LOSER’s Game)を日本語訳し、簡単な解説を加えてみたいと思います。
※以下の日本語訳・解説はすべてこのブログの筆者によるものであり、内容についてのあらゆる責任は筆者にあります。また、翻訳とブログへの転載についてはFried本人から許可を得ています。Thank you for your kindness, Fried!
Poker is a LOSER’s Game by mynameiskarl
『ポーカーは負け組のゲーム』(Poker is a LOSER’s Game)日本語訳
みんな、僕は伝えないといけないことがあるんだ。言いにくいことなんだけど・・・ポーカーは「負け組のゲーム」(LOSER’s Game)なんだ。
(イントロ~♪ 謎のヒップホップ)
『ポーカーは負け組のゲーム』・・・クリックしたくなるキャッチーなタイトルだろう?
君たちもきっと「どういう話なんだろう?」と気になって続きを見ているはずだ。イントロをすっ飛ばしてね!
さて、僕がこの考え方を初めて耳にしたとき、それは投資にまつわる話だったんだ。
おっと、心配しないでいいよ。これから話すのは負け組のゲームだけど、そうはいっても僕たちはもちろん勝ち組になろうとしてるんだからね。
さて、Charles Ellisは投資についてのある本を書いた*1。彼はその本の中で、投資とは「負け組のゲーム」であること、そしてその「負け組のゲーム」において勝つことについて言及したんだ。
「負け組のゲーム」という考え方だけど、実はこれはテニスプレイヤーの研究からきてるんだ。
研究者によると、ほとんどの選手はテニスを「負け組のゲーム」としてプレイしていて、そしてトップ層のごく限られた選手だけがテニスを「勝ち組のゲーム」としてプレイしている。こう結論付けられたんだね。
では、「勝ち組のゲーム」とは何だろう?
「勝ち組のゲーム」において、トップ層は積極的に勝ちにいき、そして勝つべくして勝っているんだ。
相手の選手が全く打ち返せないような凄まじいプレイ、当然それはスコアになり、勝ちへと結びつく。
つまり、上位1%かそれ以上の層は、積極的に「良いプレイ」をすることで勝利をもぎ取っているんだ。これがトップ層にとっての「テニスのやり方」、「勝ち組のゲーム」の勝ち方というわけなんだね。
では、その他大勢、つまりトップ層以下の選手たちは、どうテニスをプレイしているんだろうか?
そう、彼らは「負け組のゲーム」をプレイしているんだ。
「負け組のゲーム」では、積極的に勝ちにいくことはしない。なぜなら、ほかのプレイヤーはミスをするから。
そんな「負け組のゲーム」の中で、一体どうやって勝ち組になればいいんだろう?
答えは「ミスを減らすこと」。
「勝ち組のゲーム」のように、スーパープレイをして積極的に勝ちにいく必要はない。
とにかく、くだらないミス(stupid shit)をしないよう心がけることだ。
これがテニスにおける「負け組のゲーム」と「勝ち組のゲーム」の勝ち方なんだ。
これと同じことが投資にも言える、とCharles Ellisは本の中で主張している。
投資において、ほとんどの人は「すばらしいスーパープレイ」を目指すべきではないんだ。
それよりもまずはひどいミスを減らすべきで、例えばインデックスファンドを分散させたり、経費を削減したりすべきだろう。
ただし!僕は金融アドバイザーではないからね。投資については自分でリサーチなんかをしてやってくれよ。
あくまでもこれはサブトピックで、僕は投資のアドバイスをするような類の人間ではないからね。
そうはいっても「負け組のゲーム」としての投資だ。これと同じ考え方が適用されるだろう。
僕は投資についての話を聞くたびに、Charlie Mungerのある言葉を思い出すんだ。
Charlie MungerはWarren Buffett*2の右腕で、もし君たちがこれから投資について何か本を読んだりするなら、この言葉をうんざりするほど耳にすることだろう。
「すばらしく優れていようとするのではなく、愚か者にならないように常に心がけているからこそ、私たちはこれほどまでに長い間アドバンテージ(有利)を保っていられるーーCharlie Munger」
そう、これこそが投資において正しいことなんだ。
僕たちは愚かなミスをするべきではない。
さて、じゃあポーカーの話に戻ろうか。
僕の場合、今日のセッションはすごく良い結果を出せた、ということがたまにある。
そこで僕は考えるんだ。
「どうやって僕は勝てたんだ?」
「どうして先週の僕よりも良いプレイができたんだろうか?」
「相手のプレイヤーも勝とうとしているのに、どうして彼らより優れた結果を出せたんだ?」
ってね。
こういうときに僕が感じるのは、僕はただ普通に(nomal)プレイすることを心がけただけなんだ。
いつも通りの良いプレイをしよう(play a regular good game)と心がけたんだね。
そしてたまたま今回は相手のプレイヤーが僕にお金をくれた、ということなんだ。
つまり、スーパープレイを狙うわけじゃなくて、自分自身の堅実なプレイ(solid game)をものにするべきなんだね。
そうすれば相手は勝手にミスをしてくれるというわけさ。
もちろん、自分もミスをすることもあるだろう。でも、相手はそれよりももっとミスを犯すんだ。
君たちの中にはものすごいプレイをして勝ちまくってやる!という人もいるように思うけど、正直言って僕はあまりおすすめしないね。
僕が書いた最新の記事なんだけど、今回のトピックに関連した話なんだ。だから下にリンクを載せているよ。
https://mydomainiskarl.com/2019/04/in-defense-of-feel-players/
僕はこの記事の中でゾーンに入ること、そして自分自身の堅実な土台(solid base)を築くことについて書いている。
とはいえ、僕はポーカーにおける創造性(creativity)を完全に否定しているわけではないからね。
状況に適応すること、創造性の余地を残すことについても述べているから。
でも、やはり堅実な土台をしっかりと持つことが「負け組のゲーム」で勝つためには大事なんだ。
凄まじい、常識はずれの、目を丸くするようなスーパープレイをしようとして、愚かなミスをすることだけは絶対にダメだ。
ところで、この考え方は他のいろんな事柄にも当てはまると思うんだ。
君たちの中には有名なブログサイトの”Wait But Why”*3をよく見る人もいるんじゃないかな。
そのブログの中で、著者のTim Arbanは人生を「何気ない日々の寄せ集め(collection of ordinary days)」と表現してる。
彼によると、幸せは何か特別な瞬間(outliers)の中にあるのではなく、何気ないいつもの水曜日にこそ幸せはあるんだ。
また別の記事によると、彼はこう言ってる。
人生のパートナーや理想的な人間関係を求めるなら、それはタイのハネムーンにあるのではない。
いつもの何気ない、しかし忘れがたい水曜日に、共に幸せを感じることが大切なんだと。
こんなふうに、今回紹介したアイデアは実にいろいろなことに適用できる。
ものすごく賢い人間になろうとして愚かなことをしたりせず、どうか堅実に日々を過ごしていってほしい。
そして「負け組のゲーム」に打ち勝つんだ。
そうすれば、他のプレイヤーと大きな差をつけられるはずさ。
(了)
解説
最近はいたるところでポーカーの情報を得ることができます。
特に英語圏ではその傾向が顕著です。
大きな掲示板だとTwo Plus Twoがありますし、Run it Once、UpSwingPokerなどのコーチングサイト、個人ブログやTwitterも入れると数えきれないほどです。
しかし『Poker is a LOSER’s Game』は戦略について真正面からあれこれ語るのではなく、ポーカーの周辺領域からポーカーを語っています。
初めて動画を見たとき、それがとても新鮮に感じられました。
ポーカーは「負け組のゲーム」であり、「負け組のゲーム」で勝つためにはミスを減らし、平常心で堅実なプレイをすべき、というのが大まかな話の筋でした。
確かに、自分の経験を振り返ってみても心当たりがあります。
大きく勝ち越すときはたいてい相手のひどいプレイと自分のビッグハンドがぶつかったときです。
逆に1日のセッションで何バイインも失うときは、何度もひどいプレイをしてしまっているように思います。
では、「ミスを減らす」には具体的にどうすればいいのでしょうか。
Friedの動画に解説を加えるなんておこがましい気がしないでもないですが、戦略の観点からいくつかポイントを挙げてみたいと思います。
そもそも「ミス」とは何でしょうか。
あるプレイが「ミス」であるとわかるためには、基準となる何らかの「正解」が必要なはずです。
では「正解」とは?
この点についてFriedは「堅実なプレイ(solid game)」とさらっと流していますが、要するに何らかの根拠に基づいたプレイの軸を持って、そこから大きく外れないようにすべきだということなのでしょう。
プレイの軸は大きく分けて二つあります。いわゆるABCポーカーとGTO(Game Theory Optimal)です。
ABCポーカーという言葉は状況に応じていろいろな意味で使われていますが、
「ポーカーの初級者が身につける戦略」
「相手のアクションやレンジを予想する」
「利益を最大化して、損失を最小化するアクションを選ぶ」
などの特徴が挙げられます。
相手はこんなプレイヤータイプで、こんなレンジを持っているだろうから 、自分の勝率(エクイティ)はこのぐらいだろう。じゃあ、自分の勝率に見合った分だけチップを賭けよう、と判断します。
ABCポーカーにおける「ミス」とは何でしょうか?
真っ先に挙げられるのは「バリューにもブラフにもなっていないベット(レイズ)」でしょう。
バリューにもブラフにもならないプレイは、利益を小さくして損失を大きくしてしまいます。
これは利益を最大化して、損失を最小化するアクションを選ぶABCポーカーのやり方から大きく外れますから、「ミス」である可能性が高いでしょう。
こんな経験はないでしょうか。
リバーで相手のレンジが強くなりすぎてて、ほとんど降ろせないのにオーバーベットでブラフをしてしまったり。
あるいは、ターンで相手のレンジにドローがたくさん残っているのに、あえてナッツでベットせずにチェックバックしてしまったり。
一度落ち着いて、自分の中のABCポーカーを思い出せば、どちらも回避できていた「ミス」だったかもしれません。
スーパープレイは一歩間違えるとファンシープレイになり、大きな負けにつながってしまいます。
※ABCポーカーについては初級編・中級編で紹介しています。
とはいうものの、Friedが意図している「堅実なプレイ(solid game)」は、やはりGTOのほうでしょう。
GTOはABCポーカーのように相手のレンジやアクションを主観や経験で決めつけたりはしません。
互いが相手を最大限搾取するような戦略を使っている状況(ナッシュ均衡)を基にして、相手のレンジやアクションを考えます。
また、ABCポーカーはエクイティを基準に自分のアクションを決めますが、GTOでアクションの決め手になるのは期待値(EV)です。
この点が両者の大きな違いかと思います。
それでは、GTOにおける「ミス」とは何でしょうか。
これについてはとてもシンプルで、「GTOが使わないアクションやベットサイズを使ってしまうこと」だと思います。
GTOの性質上、GTOが使わないアクションやベットサイズを使うと、搾取される可能性が出てくるだけでなく、レンジ全体の期待値を損なってしまう危険があります。
もちろん、相手を大胆に搾取するためにあえてGTOから外れたアクションを選ぶこともありますが、そういったシチュエーションはとても稀です。
また、GTOと一口に言ってもいろいろです。
3ベットポットの全レンジCBやプリフロップソリューションのような汎用性の高い簡易GTOの場合、そこから外れたアクションを選ぶことは特に大きなミスにつながるでしょう。
それに、実戦的にはGTOが使うアクションの範囲内で相手を搾取することも可能です。
混合戦略になっているアクションを相手のプレイスタイルに合わせて調節することで、より高い期待値を実現できます。
ですから、積極的にGTOが取らないアクションを選ぶというのは、相手を搾取するという観点から見てもやはりレアケースで、ミスにつながりやすいと思います。
GTOはこの状況でどんなアクションを選ぶのか?
レンジ全体でベット・チェックする頻度は?それぞれの期待値は?
ベットサイズを変えるとコールする頻度はどう変わる?
どんなハンドでディフェンスするのをGTOは好むのか?
こうした問いにできるだけたくさんの状況で答えられるようになると、GTOから大きく外れずにプレイできるようになり、ミスも少しずつ減ってくると僕は考えています。
※GTOについては超上級編で紹介しています。
ABCポーカーとGTOの違いについては、また次回の記事で詳しくご紹介できればと思います。
皆さんも「何気ないいつもの水曜日」をお過ごしください。ではまた!
コメント
コメント一覧 (1件)
loser’s gameの話は有名で、これ自体は知っていました。でも、ポーカーとの絡みは初めて読みました。
collection of ordinary days:「何気ない日々の寄せ集め」は素敵な訳ですね^^
とても読みやすくわかりやすい文章でした。次もたのしみにしています。